講義レポート

広葉樹林で説明する新田さん

第1回 令和2年9月24日~25日

飛騨市の広葉樹のまちづくり

飛騨市が目指す広葉樹のまちづくりを支える「豊かな森づくり」と「小径広葉樹の新たな価値の創造」の一連の流れを知り、広葉樹活用の必要性とその可能性を理解する。

講義内容
開校式・オリエンテーション・参加者自己紹介
飛騨市・広葉樹のまちづくりとは
飛騨市の広葉樹施業の実践
飛騨の広葉樹の流通と製材・乾燥
飛騨の広葉樹によるものづくり
広葉樹の新しい価値創造の挑戦
2日間の振り返りと意見交換・質疑応答
講師
飛騨市役所 林業振興課 課長補佐 竹田慎二氏
飛騨市森林組合林産課 課長 新田克之氏
株式会社西野製材所 代表取締役 西野真徳氏
北々工房 代表 北川啓市氏
株式会社飛騨の森でクマは踊る 代表取締役 松本剛氏

飛騨市・広葉樹のまちづくり学校が開校!

遂に2020/9/24~25で「飛騨市・広葉樹のまちづくり学校」が開催されました。 皆さんの熱心な眼差しが印象的で、それぞれの分野で専門的な知識を持たれている参加者が多く、議論は活発に行われました。1日目は皆さん緊張した面持ちでしたが、一晩、飛騨の美味しいお酒を酌み交わしたこともあってか、2日目には打ち解けあった雰囲気もあり、個々での意見交換なども活発に行われていました。
そんな大盛況のうちに終わった第一回のまちづくり学校の様子を、学校運営事務局である株式会社トビムシの森脇がレポートとしてまとめたいと思います。

まず改めて、「飛騨市・広葉樹のまちづくり学校」とは何か説明したいと思います。

「飛騨市・広葉樹のまちづくり学校」とは?

広葉樹のまちづくり学校

この学校は、飛騨市が広葉樹活用を軸とした持続可能な地域づくりに挑戦する人材育成のため、飛騨地域の実践者が互いに学び合い、連携できる関係性をつくることを目的とした実践型のスクールです。 具体的には飛騨市をフィールドに広葉樹の施業、流通、製材、加工、販売の流れを学びます。また今行われている挑戦をそれぞれ共有し、人とのつながりをつくり相互理解を深め、今後飛騨市の広葉樹活用について具体的に考え、実践することができる人材の育成を目指します。
今回は市外、県外から参加して下さる方もいらっしゃり、遠くは神奈川県から車で5時間程かけて来られる方もいました。飛騨地域の実践者に限らず、飛騨地域と連携してくださる意欲のある域外の方々のおかげで、地域を客観視でき、新たな発見も多そうです。
第一回のテーマは『飛騨市の広葉樹のまちづくり』。
飛騨市が目指す広葉樹のまちづくりを支える「豊かな森づくり」と「小径広葉樹の新たな価値の創造」の一連の流れを知り、広葉樹活用の必要性とその可能性を理解する事を目的としています。

それでは、1日目からレポートしていきます。

2020/9/24(1日目)

開校式・オリエンテーション・参加者自己紹介

講義挨拶

飛騨市役所林業振興課の二木課長からご挨拶があった後、参加者全員から自己紹介がありました。
参加者からは、「薪の事業を今後展開していきたいと考えている。そこで地域材の利用を考えた。今後の事業展開に生かしていきたいと思い参加した。」という今後の事業への具体的な展開も視野に入れて参加された方、「自分のものづくりが山に役立っているのか、山から製品になるまでの一連の流れを知りたい。」といった日頃素朴に疑問に感じていた事を解消したいという方、「広葉樹の林業だけでなくまちづくりまでやるという所に参加意欲を掻き立てられた。」といったこの学校の理念に賛同してくださった方などがいらっしゃり、それぞれ明確な意思があり参加されていることが印象的でした。また、皆さんに共通していた参加動機は、自分の専門分野が山とどう繋がり、まちづくりに繋がっていくのかということだと感じました。

挨拶の様子

飛騨市・広葉樹のまちづくりとは
@市役所会議室

講師:飛騨市役所 林業振興課 課長補佐 竹田慎二氏

講義説明

これまで飛騨市で行ってきた広葉樹のまちづくりがどのようなものだったのか飛騨市役所林業振興課の竹田さんよりご説明がありました。
初めは、広葉樹活用に取り組むと言うと、周囲から何を言っているんだと言われる状況からのスタートだったそうです。飛騨市の広葉樹は戦前、戦中は薪炭利用がメインでしたが、近年の主な利用はチップで、広葉樹の原木の内93%がチップになっています。また、そのチップ用の原木は安い価格で市外の事業者に流れてしまっている状況です。
さらに、飛騨市の森林資源の内、広葉樹は7割程ありますが平均直径が26cm程度と細い材しかなく、直通の木でも薪や枕木ぐらいにしかなりません。こうした広葉樹の施業・活用方法を模索していく必要があります。
今後取り組むべき事は、価値のある広葉樹を育てることと小径広葉樹の新しい価値を創造すること。そのために、スイスのフォレスターの研修をはじめ、第三セクターとして(株)飛騨の森でクマは踊る(通称:ヒダクマ)を設立し、建築家やデザイナーと関係をつくることで小径広葉樹を活用した商品や内装の企画や製作を行い、現在では黒字で経営できるところまできました。
ただ、こうした取り組みだけでは動いている、流通している材が少量で地域経済へのインパクトは非常に限られているという問題があります。
そこで、市内の関係者で話し合う円卓会議を行い、流通量を増やそうという取り組みが始められています。さらに令和2年度からは広葉樹活用推進コンソーシアムを組織し、コンシェルジュを中心に流通を加速させる方策がとられています。
今後はさらに林業の川上から川下のみを考えるのではなく、幅広く取り組みをしていきたいと考えておられるようで、林業分野に限らず、建築、福祉分野などと共同して新たな広葉樹の利用方法を模索し続けていきたいと力強くおしゃっていました。

参加者からのコメント

  • 飛騨市の取り組みの概要と進捗状況が把握できた。竹田さんの熱意でここまで来たのはすごい。次の世代に繋げて欲しいし、私もそれに参加したい。
  • 非常に興味深い取り組みで、自分がその中にどう関われるだろうかと感じた。ベースになるであろうチップについての取り組みがなかったことが気になった。
  • まちづくりにつながっている。
参加者からも多くのコメントが寄せられました。

飛騨市の広葉樹施業の実践
@森林組合土場裏

講師:飛騨市森林組合林産課 課長 新田克之氏

飛騨市森林組合林産課 課長 新田克之氏

森林組合の新田さんからは育成木施業を中心に広葉樹施業についてご説明いただきました。 針葉樹の森づくりについては間引きをすればいい(間伐)が、広葉樹はそう簡単なものではありません。
広葉樹は切り株から勝手に芽が生え、密になると勝手に枯れます。しかし、用材が採れる山にするためには手入れをする必要があるため育成木施業を実施しています。
育成木施業でまず大切なのは観察すること。樹種、立地などを注意深く観察します。そして育てる木を選びます。育てる木の妨げになる立木はライバル木として伐採します。
育成木の選木で気をつけることは、枝と葉の多いものを選ぶ事、樹冠の大きなものを選ぶ事、根の周りに虫が入りやすいので確認する事などが挙げられます。また育成木の樹種は一種類にしてしまうと、例えば将来病気や害虫などが発生した際に全滅してしまうリスクが高まるので、数種類は選ぶようにしています。
周りの木を伐り過ぎて、光が後からあたると後生枝が生え、材として質が下がるものがあり、注意が必要です。
このように気をつけなければならない点がとても多いことから、針葉樹より広葉樹施業の大変さが伺えます。
飛騨の山にはナラ、クリ、トチ、サクラなどの用材になる樹種がありますが、広葉樹の育成に関しては国内での実績がなく、飛騨市でもまだ始まったばかりで、今やっていることを積み重ねていくしかありません。
間伐方法も育てたい材によって異なり、幹を太くしたかったら若い時に樹間を空ける方が良いですが、そうすると枝は低い所から生えるため節のない通直部分は短くなります。一方で 幹を長くしたかったら、若い時に樹間を狭め、枝を高い所から生やした方が良いですが、そうすると幹はどうしても細くなります。そこのバランスを考え、枝下の長さをある程度確保した段階で間伐をし始めます。ただ枝打ちするとそこから腐りやすくなるので、気をつける必要があります。
実は1950年ごろの広葉樹の教科書にも育成技術については記述がありました。しかしその時代にはチップがメインでいい材が有れば用材として出すぐらいのことで、手をかけてこなくても良かったという現場の事情があり、育成木施業はこれからということがよく分かりました。

参加者からのコメント

  • 広葉樹施業の難しさが改めてわかった。その中で育成への熱意を感じた。
  • 実践というのはこれから始まるというところで、まだ方法論については何とも言えないが、意欲的な取り組みだと思った。どのようにペイさせるのかが課題ではないか。
  • 広葉樹施業はスパンが長く、針葉樹と違いとても難しい中、林業として取り組む意味、意義をもう少し考えてみたい。
  • フィールドに近い環境でお話を伺うことができた。内容も具体的だった。
広葉樹林を前に説明する新田さん
広葉樹林を前に説明する新田さん
森林文化アカデミーの横井先生からの補足説明。
森林文化アカデミーの横井先生からの補足説明。
2日目のレポートはこちら