講義レポート

最終回集合写真

第6回 令和3年2月24日~25日

広葉樹の新しい価値の創造

これまで小径であることから効率性が重要視され、仕分け等がされることなくバイオマスやチップなどとして市外に、しかも安価で流出していた小径広葉樹。最終回は、地域の広葉樹に改めて注目し、資源として「安定的」かつ「継続的」にその価値を高め、より付加価値の高い商品として加工、流通させる取り組みについて理解する。

講義内容
受講者の取り組みのご紹介
全員のプラン発表、質疑応答、投票、チーム分け
グループごとのプラン作成
グループごとのプラン発表
講師
受講者の方々

飛騨市・広葉樹のまちづくり学校2020年もいよいよ最終回となりました。
今回は参加者の皆さんの「もっと他の参加者の皆さんのことを知りたい」、「色々議論を深めたい」といった声を反映した形で講義スケジュールが組まれました。
初日の前半で参加者の皆さんから事業紹介をしていただき、初日の後半、2日目の前半と時間をとって皆さんで「飛騨の広葉樹の森の価値を高めるプラン」を議論していただきました。さらに、2日目の後半には飛騨市長にも参加いただき、熱気に満ちたプレゼンテーションが行われました。
また、カリキュラムが終了した後も今回で最後かと思うと皆さん名残惜しい様子でこれからの展開などについて議論されていたのが印象的でした。

それでは、第6回の様子も学校運営事務局である株式会社トビムシの森脇がレポートとしてまとめたいと思います。
今回のテーマは『広葉樹の新しい価値の創造』。
参加者の皆さんからも「川上から川下までの方達が半年間の成果としての発表するので、どういう意見が聞けるか楽しみにしていました。」「木材に関わる様々な分野の人たちが、広葉樹を活用するために足りないこと、必要なこと等、私が考え付かなかった新しい観点からの話が聞けることを期待していました。」「関係者だけなく飛騨市民にとって喜び、誇りとなるものは何かを知りたかった。」「次年度の事業につながる具体的なアイデアが生まれることを期待していた。」といった最終回らしい今後に繋がる具体的なアウトプットを得たいという期待感が伺えました。

それでは、1日目からレポートしていきます。

2021/1/21(1日目)

受講者の取り組みのご紹介(1日目前半)

講師:
林業藤屋  伊藤雅文氏
(特非)穂の国森林探偵事務所 髙橋啓氏
堀内ウッドクラフト 堀内良一氏
澤秀俊設計環境・NPO法人活エネルギーアカデミー 澤秀俊氏
有限会社きたもっく 鈴木和明氏
合同会社ツバキラボ 和田賢治氏
岐阜県立森林文化アカデミー木工専攻1年 水上淳平氏

初日、前半の時間を使って、6名の方に日頃行っている事業を紹介していただきました。

林業藤屋  伊藤雅文氏

林業藤屋  伊藤雅文氏

伊藤さんからは,現在取り組まれている特殊伐採についてご説明いただきました。
特殊伐採とは、重機などが入りづらいお寺や住宅などにある古い木に登っていき、危険な枝などを取り除く作業などのことを言います。
日本では体系的に教えてくれるところがほぼなく、オーストラリアで特殊伐採を学んできた方に教わりながら作業を行なっていらっしゃいます。
伊藤さんのこの学校に参加された理由でもある「良い木があっても材として売っていくことができない」という悩みは、特殊伐採では本数が多く出ない、売れるかどうかも分からないため業者に頼むことも難しく、自社でトラックを持つことも難しいといったジレンマから生まれています。
また、日頃業務で使われている道具なども紹介いただき、参加者の皆さんも興味津々な様子でした。

(特非)穂の国森林探偵事務所 髙橋啓氏

(特非)穂の国森林探偵事務所 髙橋啓氏

高橋さんが行なっている「森林探偵」という仕事についてご説明いただきました。
森林探偵の主な仕事は、山主さんと地域をつなぎ森林資産の価値継承を支援することです。
かつてのように山主個人が容易に森林経営を行える環境になく、どこに自分の山があるか分からないといった問題もあり、解消していかなければいけません。
具体的には山主が森林経営者になるための支援や、地域に住んでいない人でも経営に参加できるように売買や貸付などの手助けをする「森の養子化事業」などを行なっていらっしゃいます。
特に印象に残っている内容は事業の中で「集落営”林”」の形を作っていきたいとおっしゃっていたことです。農業では集落営農が行われていますが、林業ではしっかりとした形で行われてこなかったので今後形作っていきたいと語っておられました。

堀内ウッドクラフト 堀内良一氏

堀内ウッドクラフト 堀内良一氏

堀内さんからは事業紹介とFSC認証についてご説明いただきました。
堀内ウッドクラフトではオリジナルの木製玩具を作られています。寄木細工で作ったけん玉や病院などに置く検査器具を模した「ぷれぱらウッド」という玩具などです。
FSC認証は、森林の管理を認証するFM(Forest Management)認証と、加工・流通過程の管理を認証するCoC(Chain of Custody)認証のつながりで成り立っており、堀内ウッドクラフトではCoC認証を平成16年より取得されています。
きっかけは20年程前にもなるようで、当時はFSC森林認証を取得しているところは全国に数件しかありませんでした。ですが、堀内さんのお子さんも小さく、将来の環境のことを考えるとこの認証を広げていくべきだと思われ、自らCoC認証を継続して取得されてきました。
最後に、この十数年で認証取得者との人脈や認証製品製造の実績を作ることができ、認証費を支払ってきたことも決して無駄ではなかったと語られていたことが印象的でした。

澤秀俊設計環境・NPO法人活エネルギーアカデミー 澤秀俊氏

澤秀俊設計環境・NPO法人活エネルギーアカデミー 澤秀俊氏

澤さんは建築設計事務所を営む傍ら、自然エネルギーNPO「活エネルギーアカデミー」の事務局を担っていらっしゃいます。
高山市は人口が8.6万人に対し、面積が日本一大きな市で森林面積が92%もあるのに、灯油を年間24億円も消費しているそうです。これはもったいないと、放ったらかしの山の恵みを間伐することで活かす「木の駅プロジェクト」に取り組み始められました。
木材の集積・流通拠点である木の駅は高山市内に現在10ヶ所あり、「積まマイカー」と呼ばれる定期トラック便が週1回、全ての駅を回る仕組みになっています。地域の元気な高齢者を中心に木材を搬出しており、新たな間伐材の物流システムを生み出しています。
回収された木材は枝・葉も含め、樹木全体を余すことなく活用することを目標に、チップ・薪・炭・エキス・家具材・建材など様々な用途に使われています。
木材の売り上げは地域通貨のEnepo(エネポ)に交換、集材者・作業協力者へ還元し、地元の協賛店で使うことができるようになっており、地域内での経済循環が促される仕組みです。
また2019年には地域通貨国際会議を飛騨高山で研究者の皆さんと共に開催し、海外からも多くの人が訪れ、交流を深められたそうです。

本業の建築設計でも、山の価値を上げるために「山仕事・森の都合で建築の材料が決まる逆のプロセスを作っていく。」ことを目指されており、自営的な小規模林業で出された自伐材を使った建材づくりをし、ご自身が設計された建築に使われています。
そして最後に飛騨地域でご自身が行なっているこうした小さな循環が集まることで、より広い地域に発展させることが出来ればと語っておられました。

有限会社きたもっく 鈴木和明氏

有限会社きたもっく 鈴木和明氏

鈴木さんが勤めていらっしゃる(有)きたもっくでは、キャンプ場を主に事業を展開されていました。その後、林産業や養蜂事業に取り組まれ、地域貢献のために山林を活用する事業の方にも展開されていきました。
特に興味深かったのは、原木は大きくて重く、仕分けや移動距離が多ければ多いほど不利なため、外材に対抗しうる範囲で勝負をするために、「エネルギー自給経済圏35km」という構想を掲げ、地域資源の地産地消モデルを徹底している点です。
240haの自社保有林や地域においてアーボリカルチャーに基づく広葉樹の伐採を行ったり、地域で出る原木の買い付けを行うなどして、決して価値が高くない薪生産を中心にして事業を組み立て、キャンプ場、薪ストーブ施工販売や焚き火があるミーティング施設などを通して薪を高付加価値化しています。
さらに用材向けの原木については広葉樹の木材生産・コテージ建築、飛騨産業様との提携による家具生産・販売も行う林業の六次産業化を実現しています。
自社の山林や地域の耕作放棄地を活用した養蜂事業も行っており、はちみつ酒やはちみつビールなどの商品開発・販売を行う養蜂の六次産業化も行っています。
さらにそれらをキャンプ場の観光宿泊サービスにおいてもフルに活用しており、 農林水産省による六次産業化アワードで 2020年度の食料産業局長賞を受賞されています。

合同会社ツバキラボ 和田賢治氏

合同会社ツバキラボ 和田賢治氏

和田さんは「地域資源を活用し、人々の暮らしを豊かに」を企業ミッションとしてかかげ、合同会社ツバキラボを経営されています。事業は大きく分けて4つあり、会員制木工シェア工房、木製品・家具の企画と製造、地域材活用コンサルティング、木工用工具販売です。
会員制木工シェア工房では、木工旋盤などを含めたプロが使うような機材も使用することができ、男女比も半々ほどで、20代から70代まで老若男女が会員となり木工を楽しまれています。
そのほかの事業として、アベマキを地元の小学校の机に活用するプロジェクトを取り組まれたり、刃物のまちである関市でヒノキの枝をアウトドアナイフのハンドルに活用するプロジェクトなどに取り組まれています。また、木工用旋盤に使う工具も一般的には手に入れられる場所が少ないということもあり、工具の販売なども行っていらっしゃいます。
それも、ツバキラボの「自分でつくり、暮らす」という理念を実現するために取り組まれていることだということを強く感じました。

岐阜県立森林文化アカデミー木工専攻1年 水上淳平氏

岐阜県立森林文化アカデミー木工専攻1年 水上淳平氏

森林文化アカデミーで木工を専攻されている水上さんはこの学校の間に何か成果物をつくりたいという思いのもと、折りたたんで持ち運ぶことができる机を作ってくださいました。
今回は森林組合からいただいたセンとオニグルミの根元部分を使われたそうです。こういった材は使われる事が少なく気づかれていませんでしたが、根元特有の美しい木目の板をとることができたそうです。また、伝統的な木組み使う事で、小さな材からでも机などの大きな家具を作ることができるということを実感されていました。
今後の展開としてもこうした木製品をワークショップ形式で製作したり、木材の活用されていない部分を利用して玩具なを製作することができるのではないかと力強く語られていました。

参加者からのコメント

  • 既に行動されている方のお話が聞けてとても勉強になりました。ご紹介いただいた受講生の方の活動にすごく興味があるので、見学をさせていただきたいと思っております。
  • 各地から凄い実践者たちが受講していたんだなと改めて実感しました。これだけの取り組みが各地で行われているのに、針葉樹・広葉樹ともにまだまだ課題が山積しているという現状は、林業という分野の底の知れ無さを感じてしまいます。
  • 共通していることでしたが、みなさん目先の利益にとらわれない、地に足の着いた取り組みをされているのが印象的でした。 つまり森を育てるってやっぱりそういうことなんだ、と再認識する時間になりました。
  • 参加者の皆さんのバックグラウンドの深さ、改めて興味深かったです。本当は参加者の皆さん全員の活動内容をお聞きしたかったですね。森のコンシェルジュのお話もお聞きしたかった。
1日目後半・2日目のレポートはこちら