第3回 令和2年11月19日~20日
広葉樹は伐採後すぐに使い手の元に届くわけではなく、伐採、搬出、造材、運搬、製材、乾燥、加工など様々な過程を経て流通している。ここでは、広葉樹原木の様々な流通について理解し、また広葉樹原木の価値を高める上で重要な位置づけがされる「製材」と「乾燥」の具体的手法について理解する。
2020/11/20(2日目)
奥飛騨開発では広葉樹の伐採・搬出から行っており、原木を土場に持ってきてから、建材や家具用材、枕木、チップ・おが粉などの用途別に仕分けます。
近年特に力を入れているのが、おが粉やチップ加工。かつては建材の加工も行っていたようですが、需要が小さくなってきたため、おが粉やチップにシフトされたようです。
おが粉の主な利用先はキノコ栽培農家。特になめこ生産者が多く、なめこがよく育つ条件を満たすためにブナを2割ほど入れたりナラと混ぜたりと、生産者の要望に応えるそうです。ただ、ケヤキなどの針葉樹は少し混ざっただけでもキノコが生えなくなってしまうようで、十分気を遣われています。
チップを加工する機材は数千万円もする高価なもので、なかなか減価償却が大変なようです。ですが、おが粉は「製材のゴミ」というイメージが根強く、安く買い叩かれてしまうのが実情です。ただし、これ以上値上げをしてしまうとキノコ栽培農家の経営を圧迫することにもなるので、お互いにギリギリの所で頑張っていらっしゃいます。
また、紙おむつや高級ティッシュペーパーなどの材料として比較的安定した需要がある針葉樹パルプ材に対し、主に紙になる広葉樹のパルプ材はペーパーレス化などにより、かつてのような需要がなくなってきているといった問題もあるようです。
広葉樹の搬出に関しても、かつては山際に今ほど密に家が立ち並んでいなかったため、広葉樹を容易に搬出することもできましたが、今では家などが邪魔をして搬出ができない。その結果、その一帯の樹木が病気によって枯れてしまうことも起きています。その他にも架線集材にも熟練の技術や勘が必要で、継承していく事の大変さを伺い知ることができました。
このように時代の変化によって広葉樹を取り巻く環境も変化していきます。変化に順応していくことの難しさもまた広葉樹活用の抱える問題の一端であることは間違いないようです。
柳木材は1960年に創業され、1987年に株式会社化されました。
かつては不動産事業や建築事業、素材生産を行っていましたが、現在は自社でもっている広大な山林を森林組合や他社に依頼して伐採を行っていくことと、広葉樹の流通拠点としての役割を担っていくことを主な事業として取り組まれています。
まず、流通の流れを整理して説明いただきました。
原木が運ばれてきたら、まずは樹種別に分け、それぞれの材の状態を確認し検品を行います。奥飛騨開発と同様に、用材、枕木、チップおが粉に規格で分けられます。その後取引がある事業者の元へと運ばれていきます。
用材のA材、B材という線引きは微妙なもので、隣接している製材所の西野さんにはよく相談されるそうです。どこまでの欠点ならいけるのか、どこまでの範囲が材として価値があるものなのかといったことを西野さんから助言をいただきながら、日々そのノウハウを蓄積されています。
小径木も一般的にはチップにしかならないようなものでも、木工作家によっては細い材を好まれたりすることも多くあり、価値基準は各々によって異なります。分からない材は柳さんご自身で製材し、どの様になってるのか木目を確認したり、ご自身でも新たな価値を模索されています。
薪の需要も高まっています。薪ストーブのユーザーはナラを要望される方が多いですが、最近では薪ストーブの改良が進み、ナラに限らず針葉樹や他の樹種の広葉樹も使えるようになっています。ただ置き場の問題や乾燥がうまくいかなかったり様々な問題はあるようです。
柳さんは最後に参加者から今後の展望について聞かれた際に、
「柳木材は西野製材所に隣接しており、国道沿いのため流通に適している立地にあります。ですから、みなさんに開けた、林業関係者のみならず一般の方も気軽に来て買うことができる木材流通の基地にしていきたい。」
と力強く答えられていました。
(株)西野製材所代表の西野さんからは、まちづくり学校で2回目の講義となります。第1回の講義では製材所における広葉樹の流通と製材・乾燥の概要をお話いただきました。そのため今回の講義では、実際どのように製材をしているのかについてご説明いただくようにお願いしていました。西野さんご自身も講義を受ける中で「後生枝の生えてしまった広葉樹やナラ枯れした材は普段は価値がないものと思ってあまり製材しないが、実際皆さんの前で製材してみて本当に価値がないものなのか議論してみたい。」といった素晴らしい提案をいただき、普段は製材しない材を前に講義が行われるという大変貴重な機会となりました。
後生枝が生えているクリを製材したところ、素直な木目にはなっておらず、やはり後生枝の周りには黒い点があったり、年輪が複雑に入り組んでいました。ただ、木工作家の方から「これはこれで味があっていい。逆にこれぐらい多くの後生枝が生えているものの方が表情があっていいのではないか。」といった意見や「こういった材は市場に出てこないため、かえって貴重」などといった意見が出されました。
後生枝による節の入り方、その結果できる木目の雰囲気は一点もの。市場には出てこないからこそ生まれる希少性も広葉樹の価値を上げていくためには重要な要素であると思いました。
次にナラ枯れした材も製材してみると、ナラ枯れを引き起こす幼虫が木の中にたくさん潜んでおり、木部分を食べていることが確認できました。ですが、今回、製材したものはあまり被害が大きくなく、被害を受けた箇所のみ切り落として製材することで大部分は使うことができそうです。
慣習や固定観念でなんとなく価値がないと思われていた材がこういった製材所の方、木工作家の方が実際の材を前にして、意見交換を行うことで新たな価値を創造していくことは間違いなくできると感じました。