講義レポート

第1回 令和2年9月24日~25日

飛騨市の広葉樹のまちづくり

飛騨市が目指す広葉樹のまちづくりを支える「豊かな森づくり」と「小径広葉樹の新たな価値の創造」の一連の流れを知り、広葉樹活用の必要性とその可能性を理解する。


2020/9/25(2日目)

飛騨の広葉樹の流通と製材・乾燥
@西野製材所

講師:株式会社西野製材所 代表取締役 西野真徳氏

株式会社西野製材所 代表取締役 西野真徳氏

西野製材所の西野さんからは広葉樹の製材の基本的な流れについてご説明いただきました。 広葉樹の製材はまず皮を剥き、材として規格に合わせて切っていきます。そして約1年、含水率が20%程度になるまで天然乾燥させてから、高山市にある人工乾燥機に入れ、大体20日程度で8%程度まで乾燥させます。
広島北部の方ではまだブナ、ナラが上質な材が出るようで東北地方から中国・四国地方まで広範囲の地域の木を製材しています。
小径木が多い飛騨の広葉樹を有効活用するために、例えば、ブナの木を家具用から小物用まで多用途に使えるように40、30、25mmの厚みで製材し、歩留まりを良くするような工夫を行っています。
深刻な問題として、地域の製材所が減少した事でノコの目立て屋(ノコを研磨する仕事)が少なくなってきているようです。広葉樹は針葉樹に比べて硬いものが多く、ノコの重要度が特に高い。ノコを調整してくれる職人さんがいなくなると製材を続けて行く事が難しくなります。このように林業の人材育成も重要ですが、それに関わる生業の人材育成も一緒に考えていかなければならないと、参加者の皆さんも感じられたと思います。

参加者からのコメント

  • 皆さんの専門的な視点からの鋭い質問で、普段聞けない材としての木の話も聞けた。森で働く人だけでなく製材の目立ての人材育成の危機感も。解決を急ぎたい問題だと思う。
  • 小径木を扱うことによって製材業として事業メリットをどう考えるかマーケット開拓できればいいが、長い道のりになる気がする。
製材の風景
製材された板の前で小径木活用などについて説明する西野さん
製材された板の前で小径木活用等の説明をする西野さん

飛騨の広葉樹によるものづくり
@北々工房

講師:北々工房 代表 北川啓市氏

北々工房 代表 北川啓市氏

北々工房の北川さんからは飛騨市内の木工所事情についてご説明いただきました。
北川さんは飛騨市河合町の生まれで、地元で木工所を開いて21年になります。地元の広葉樹を7割ほど使っており、40種ぐらいの樹木を幅広く使っています。
地元の木工所ならではの利点として、メーカーは節が入っている材を利用する事が少ないため、差別化でき節のある材が価値あるものに生まれ変わっている事や、木工所の目の前を通ったトラックに積まれている木を見つけて、買いに行くことで珍しい種類も手に入れられるといった事を挙げられていました。
飛騨で木工をやっている方は20名程おり、小物専門、下請け、オリジナル製品制作など木工所によって特色があるようです。
飛騨市周辺には大きな木工会社があり、材も集まってくる、機械やそれをメンテナンスしてくれる業者さんも充実しているといった木工地域としてのメリットもありますが、反面、売っていくのが難しいという事もあるようです。
経営スタイルは顧客の顔が見える形で行っており、大きな木工会社であれば10年保証などが一般的ですが、北川さんは永久保証でお客さんに寄り添ったものづくりを続けられています。
小径木利用は考えていますが、白太が多いので歩留まりが悪く、また目が粗いので先を考えると狂いが出やすい。逆に年輪が細かい材があれば目が綺麗に出るようで、小物では使えますが、家具などを作る際には小径木利用は限定的だという実情も知る事ができました。

参加者からのコメント

  • 地元の広葉樹を楽しんで使っている姿勢がいいと思った。
  • 工房としてスタイル、仕事、キャリアの話と飛騨の広葉樹を利用することを分けて話が聞けると良いと思う。
  • 手作りの良さが伝わった。
  • 飛騨市のものづくりの広がりを理解することができた。
作業場の風景
作業場の風景
使っている道具や作業工程について説明する北川さん
使っている道具や作業工程について説明する北川さん

広葉樹の新しい価値創造の挑戦
@FabCafeHida

講師:株式会社飛騨の森でクマは踊る 代表取締役 松本剛氏

株式会社飛騨の森でクマは踊る 代表取締役 松本剛氏

(株)飛騨の森でクマは踊る(通称:ヒダクマ)の松本さんからは広葉樹の新たな活用方法についてご説明がありました。
始めに、ヒダクマの交流・開発拠点である「FabCafe Hida」を案内して頂きました。
施設にはレーザーカッターや3Dプリンターが設置してあり、誰でも利用することができます。継手部分など加工が難しい箇所は3Dプリンターで製作し、最新の技術をうまく使いながら家具製作などを行っています。
古民家をリノンベーションした工房ではデザイナーから依頼があったものを実際に製作できるスペースがあり、これまでは使われていなかった木の部分をうまく利用し、床材や壁材に転用した試作品なども紹介していただきました。
その後飛騨市役所に場所を移し、これまでのヒダクマの取り組みについてご説明がありました。 ヒダクマでは、その他の使い道もあるはずなのに広葉樹のほとんどがチップになっている現状に対して広葉樹の新たな価値を生み出す事をミッションとして事業を行っています。
大きく分けて森林木材事業と地域交流事業を行っており、森林木材事業はあまりお金にならない広葉樹から新たな価値を生み出して行く事業。地域交流事業は地域の可能性を引き出し、人と人を結びつける事業を展開しています。
具体的に森林木材事業では、企業の方や建築家に山に入ってもらい、そこにある材を元にものづくりを行っています。建築家と共同して飛騨にある多様な広葉樹を使ったオフィスをデザインしたり、アウトドア用品の会社とカッティングボードを製作し、飛騨の山にある樹種によって出てくる個数や時期が変わる事で価値づくりを行うなどの取り組みをされています。このような取り組みによって、他のプロジェクトでも飛騨の木を使いたいという方も増えてきているようです。 広葉樹を現状の流通にのせようと思うとどうしても手間がかかり、費用がかかるためリスクが高い。そこをヒダクマが引き受けて、新たな価値提案を行っています。
こうした取り組みを発信して行く事で面白い取り組みをされている方が飛騨の山に集まってくるといった好循環を生み出しています。
また地域交流事業では、海外の学生を受け入れ、地域の山や木材加工技術について学ぶ合宿や地元住民が参加できるようなワークショップを行ったりもしています。これは地域の方との交流を生み、経済効果も生み出す取り組みになっています。
最後に、松本さんは
「地域外のクリエイターだけでなく、飛騨地域内には様々な林業関係者がいるが、お互いに当たり前だと思っているが故に意見し合うこともない。そこをヒダクマが結びつけ後押しする事で新たな挑戦を生み出すような事業を行ってきており、広葉樹の新たな価値を生み出すことができている。」
と手応えを語っておられました。

参加者からのコメント

  • 今までのものづくりとは違ったアプローチに可能性を感じた。自分の仕事を見返していきたい。
  • 小径木を利用しているから、むしろデザイン性が高い品が多く個性が強みになっている。ファブカフェの空間やコンセプトはクリエイティブで可能性を感じた。
  • 手間とリスクを引き受けたチャレンジが仕事になっているという言葉に感銘を受けた。
事例紹介をする松本さん
事例紹介をする松本さん

2日間の振り返りと意見交換・質疑応答

初めに飛騨市・都竹市長からコメントをいただきました。

飛騨市・都竹市長

「市長としても面白い取り組みだと感じており、是非飛騨市を中心に広葉樹のまちづくりが日本全国に展開していくことを願っている。そのためにも地域外の方には徹底的にパクっていただいていい。その取り組みが飛騨市の取り組みと相乗効果を生むと考えている。」
こうした市長のコメントから飛騨市役所全体でこの学校を応援していることが伝わってきました。

最後に2日間を通しての参加者からのコメントをいただきました。
今回のレポートはこれらのコメントをご紹介して終わりにしたいと思います。
「木ならではの製品になるまで長いストーリーがある。そこに価値をもっと見出していくべきではないか。」「飛騨市としてチップの活用など大きな流通も合わせて考えて行った方が良いのではないか。」「林業の川上から川下といったこれまでの議論が本流だとして、それ以外の支流にあるような建築や福祉などの話も総合的に考え、深掘りしていく時間が必要ではないか。」「林業関係者ではない地域住民の方々にどうやって広葉樹のまちづくりというものを広めていくか考える段階なのでは。」といった今後の広葉樹のまちづくりに向けたご意見。
また森林組合で実際に広葉樹施業を行っている方からは、
「正直、広葉樹は奥山にあって危険だし、手間もかかるので伐りたくはない。ただ今回皆さんの熱い思いを感じたので頑張って行っていきたい。」
といった熱い言葉もいただくことができました。さらに、
「この学校を通じて何かしら成果物を作りたい。試作品やサプライチェーンをデザインするといったこともありではないか。」
といった意欲的なコメントもあり、今後の展開も楽しみです。

講義の様子
講義の様子

文責:飛騨市・広葉樹のまちづくり学校運営事務局/株式会社トビムシ 森脇渉

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