講義レポート

第4回 令和2年12月21日~22日

広葉樹の建築と家具への利用

針葉樹と比較して樹種が多様な広葉樹は用途もまた多様である。ここでは、広葉樹の主要な用途である建築と家具の使われ方と市場について理解する。


2020/12/22(2日目)

家具メーカーの広葉樹の活用(工場見学・解説)@飛騨産業

講師:飛騨産業株式会社 専務取締役 本母雅博氏

飛騨産業株式会社専務取締役本母雅博氏

はじめに、飛騨産業・専務取締役の本母さんから飛騨産業のこれまでの変遷についてお話をしていただきました。
「創業当時の日本の生活スタイルは、ちゃぶ台と座布団といった時代で、椅子、テーブルはありませんでした。そんな中、当時身近な資源として飛騨にたくさんあったにも関わらず腐りやすかったため利用されていなかったブナを、ミヒェル・トーネットの曲木技術を研究し、いち早く導入して家具製作を行ったのが飛騨産業の始まりです。」

飛騨産業工場

その後、家具製作を行なっている工場を見学しながら製造過程などについてご説明いただきました。
かつては家具を生産しストックしていましたが、現在は受注生産に切り替えており、在庫はできる限り抱えない工夫をされているようです。
工場は効率的に生産が行われるように動線が整理されており、角材から椅子の丸脚を削り出すことができる機械など新たな技術も取り入れながら生産が行われています。
効率的な生産システムの中にも人間の細かい観察と技術は社内でも重要視されており、椅子張り技能士の資格など様々な資格を取得し、匠、工匠になるべく、社員の皆さんは日々技術習得に励まれています。
その他にも工場内にミストを散布することで乾燥する冬場でも木材を乾燥させないようにするなどのさまざまな工夫も行なっておられました。
飛騨産業では、もっと国産材を使っていきたいと考えて積極的に様々な取り組みをされていますが、現状は限定的で、多くは北米やヨーロッパから材を仕入れているそうです。やはり生産規模に対して、まとまった量の国産材を安定的に確保することが難しい状況がネックになっているとおっしゃっていました。

販売についても参加者の皆さんから質問が出ました。
かつては各地の代理店を通して販売されておられたそうですが、お客様の声が届きにくかったため、いまでは、直営店を出店したり、家具販売店と直接やり取りをされています。お客様の声を元にした商品開発や販売努力の甲斐もあり、以前よりアイテム数は増え、3400種程もあるようです。

参加者からのコメント

  • 職人学舎で若手の育成をしたり、研究所で木材の多面的な活用の基礎研究をしたりと企業としての底辺が広いなと感じました。 海外のデザイナーとコラボしたりデザイン面でも素敵な物が多く価格は高いけれど垢抜けた感じが良いです。 ロット生産から受注生産に切り替えて在庫を極力減らしたり、流通改革などの企業努力も大変ですが時代の変化に対応するのも必要だなと感じます。 環境活動にも熱心なので木の駅構想が広まるよう期待しています。
  • 飛騨いちばんの歴史のある家具メーカーの底力を感じた。質の高い量産家具を国産広葉樹で作るのは、歩留まりなどの点で大変困難なことだと思う。そこにあえて挑戦されているのは、やはり時代は国産広葉樹なんだなと思った。 オリジナル食堂椅子、資格試験取得など、働く人のモチベーションアップの要素もあり良い。量産家具を国産広葉樹に移行する事もきっと近い未来なのでしょう。
  • あれだけの規模で家具ができあがっていくプロセスに驚きました。一方で飛騨産業という会社のことはよく分かりましたが、広葉樹を利用するという観点で全体の話をしていただけたら、もっとメーカー事情が分かり、国産広葉樹の問題点もはっきりしたと感じました。
  • 実際の工場見学はとても刺激を受けました。 従業員のみなさんが木のこと、飛騨の木材のことについてどれだけ知っているのかなというのは、もう少し聞いてみたかったです。 メーカーで国産広葉樹、針葉樹の活用に取り組まれている姿、とても応援したい気持ちになりました。
座学の様子
質疑応答の様子

家具メーカーの広葉樹の活用研究(研究所見学・解説) @飛騨産業

講師:飛騨産業株式会社きつつき森の研究所 副所長 浅田隆之氏

工場からほど近くにある飛騨産業株式会社きつつきの森の研究所では未利用材の活用など新たな木材の活用方法について研究概要を伺いました。
研究概要を抜粋して2点挙げさせていただくと、1つ目は高圧水蒸気を用いた圧縮成型技術です。
この技術により杉などの柔らかい素材の強度を上げることができるため、家具の材料として利用が可能となりました。
2つ目にオイルの抽出です。
杉や檜などからオイルを抽出しアロマオイルとして利用したり、同時に出てくる液体を「いくまい水(米、野菜の生育促進剤)」として利用するような試みをされています。

家具メーカーで研究者を雇うということは珍しいことのようです。試験レベルでできることと、実際に商品化し量産していくことの間にはたくさんのハードルがあるようですが、実際に販売まで至っている商品もあり研究の成果を垣間見ることができました。

  • 木材の家具への応用に関する研究なのかなと思っていたら、幅が広くてビックリしました。天然資源として、材だけにとどまらない、食品や医療等への多面的な利用が出来れば、地域材の活用も進むのではと期待しています。
  • 高温圧縮技術による新しい木材活用が興味深いです。
  • 樹の色々な使い方や、新たな利用方法があり興味深いお話しでした。様々な専門的な分野の仕事をしている人から見た「樹」という物の利用方法は異なると思うので、いろんな専門家と考えていくと面白いと感じました。
  • 時代に合わせた家具を提案し続け、そして今国産広葉樹。個人工房も老舗メーカーもほぼ同じ方向を向いているということでしょうか。すみ分けについての質問も飛び出しましたが、気になるところです。ただ、研究所の取り組みなどは到底個人の力では及ばないところ。希望と期待をもっています。個人工房は個人工房としてできることを考えながら精進していきたいと思います。
  • 専門的な内容でしたがわかりやすい説明で大変勉強になりました。圧密木材、熱による内部組成の変性を利用した固定化や、様々な物質の抽出など興味深く聞かせていただきました。問題点も多くあるのだとは思いますが、夢のある話で面白かったです。

家具メーカーによる広葉樹の建築・家具への活用と全国の動向と商品開発(工房・ショールーム見学と解説) @オークヴィレッジ

講師:オークヴィレッジ株式会社 取締役副社長 佐々木一弘氏

オークヴィレッジ株式会社 取締役副社長 佐々木一弘氏

オークヴィレッジでは、はじめに現在行なっている事業について大まかにご説明いただきました。
会社は創業45年程になります。木の特色をいかす、お椀から建物まで幅広いジャンルでのものづくり、100年かかって育った木を100年使うというコンセプトの元に木製品づくりを行なっています。
そのためにアフターケアや自然塗料を使うなど、あらゆることに気を使われて事業を行なっていらっしゃいます。

オークヴィレッジの最大の特徴は国産材にこだわったものづくり。常時15種程の国産広葉樹を使い、時々使うものも含めると30種程を使われています。
現在、自社の森から木を切り出し木製品を作るという取り組みも行なっており、まだ少ない量ではありますがこれから多くの山を管理していければと考えておられるようです。

工房を見学する様子

次に工房、ショールームなどを見学しながらご説明いただきました。
基本的に、家具は受注生産で必要なものだけを作っていくというスタイルです。
設計、製造、販売をやるからこそ、多様な樹種それぞれを活かしながらものづくりをすることができます。そのためお客様の要望に合わせて、適した木を選び、物を作ることを得意にされています。

ひとつずつ丁寧に作り上げていくものづくりの例として、漆塗りのお椀を紹介していただきました。
漆塗りを知ってもらうために製作した冊子をお椀と共に入れておくことで愛着を持ってもらうきっかけを作り出しています。また1回分の追加の漆塗り券が入っており、継続的なお客さんとの関係を築くとともに、手をかけてていくことへの楽しみをお客さんと共有していきたいという願いが込められています。
そのようなお客さんと関係を大切にするオークヴィレッジの考えはオーダー家具の配送にも表れています。基本的には社員が直接全国にお届けに行かれるそうです。そうすることで作った人の思いを正確に伝えることができます。こうしたお客さんとの直接的なやり取りが次の受注に繋がるということもあるようです。

また、自社の取り組みを多くの人に知ってもらえるように、裾野はできる限り広げておきたいという思いを持ってらっしゃいます。
手に取りやすい木育玩具などを使っていく中で、木の魅力に気づいてもらい、継続的なお付き合いをしていただく。お付き合いの中でオークヴィレッジのファンになっていただいた方に家具、建築とより大きなものの受注をしていただくという展開を目指しておられます。こうした段階的な関係づくりを行なっていくためにもお椀から建物までつくられていることは大きな強みになっていると感じました。

最後に、このまちづくり学校に期待すること、飛騨市の広葉樹のまちづくりの取り組みに期待することについておうかがいしました。
「オークヴィレッジでは国産材を使った幅広い製品づくりという道なき道を進んできた。そのため情報誌の発行など情報発信を地道にやってきました。そこで重要だと感じたのは一貫した姿勢で取り組んでいくこと。これまでは一企業の点として国産広葉樹利用を行なってきましたが、行政が先導していくことで面としてやっていくことができるのではないでしょうか。そうすることで参入していく敷居が低くくなり、多くの事業体が取り組まれていくと思います。」

  • とにかくセンスがすばらしい、木のことを知らない人が見ても、オークビレッジの製品なら欲しがると思います。形にする技術も素晴らしいのでしょうね。
  • 国(地域)産広葉樹を活用する現代の成功ビジネスモデルが、鮮明に示されていた。
  • これから木工をしていく上で、理念や商品開発などとても参考になりました。環境に配慮したモノづくりをする上で、木材をなるべく近くから仕入れる、端材を余す事なく使うなどメーカーでもそういった事が出来ることが知れてよかったです。
  • 外から見ていると、家具メーカーに近づいている印象がありましたが、創業当時から変わらぬ理念をもって現在に至り、多くの人の共感を得られているのだと思った。 国産広葉樹を使ったものづくり、ストーリー性のあるものづくり、どれも昔からされていることでした。 こつこつ伝えていくしかない、というお言葉が印象的でした。私もそう思います。
  • 積極的な情報発信があり、それなりにファンがいらっしゃることが伺えました。そうした取り組みをする企業が増えていくことが、プロダクトを通じて森と人とをつなげることになるのだと感じました。
オークビレッジショールーム
ショールームでの説明

文責:飛騨市・広葉樹のまちづくり学校運営事務局/株式会社トビムシ 森脇渉

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