第5回 令和3年1月21日~22日
針葉樹と比較して樹種が多様な広葉樹は用途もまた多様である。ここでは、広葉樹の木材としての多様な用途と可能性、その他の林産物利用や空間利用など幅広い活用の可能性と市場について理解する。
2021/1/22(2日目)
飛騨市役所の野村さんからは、飛騨地域の風景と紐付けながら森と暮らしを繋げる考え方や事業のご紹介をしていただきました。
はじめに、飛騨古川朝霧プロジェクトについてご説明いただきました。
まず飛騨市古川町の気候・地質、文化などを知ることから始められたそうです。
そのお話の中で特に印象に残っているのは「水は大地の血液」という言葉です。
飛騨地域は盆地なので、山から養分が流れてきます。山に降った雨は腐葉土層を通り養分を含んで低地へと下っていきます。養分を含んだ水は川となり、美味しい川魚を育み、そして田へと流れ着き、豊かな稲作文化を作り上げてきました。さらにこうした自然資源を基点として飛騨地域独特の祭りなどの文化が醸成されてきたのです。
こうした地域を知る取り組みの中で、朝霧という現象に辿り着いたそうです。
「朝霧は土地をアスファルトで埋めるとたたなくなってしまう。飛騨古川の雅な文化は盆地を囲む山野からもたらされる自然の恵による。朝霧はそれを支える豊かな水の巡りが、目に見える姿として現れるもの。そこで風土像として「朝霧たつ都」を次世代につなぐべきだと提案を始めた。」
と野村さんは朝霧プロジェクトの由来を説明してくださいました。
朝霧プロジェクトは地域資源をつなぐことをテーマに活動されています。
具体的な実践としては地域営農を行なったり、第三セクターでコンポストセンターを作り、牛糞、落ち葉、生薬残渣を「土をつくる素」として販売したりするなどの取り組みをされてきました。
野村さんはこのプロジェクトを通じて自然は有限なものだと強く感じられたそうです。
そしてこの学校の参加者に対しても、広葉樹の森を林業という切り口だけでなく、色々な視点で見てもらえたら嬉しいとおっしゃていました。
次に具体的な環境デザインの実践として「奥山と里山の環境デザイン」についてご説明いただきました。
原生林を活かそうとするとどうしても観光の方に目が行きがちだが、観光は原生林を踏み荒らしてしまうという側面もあるため、持続可能な文化遺産としてどう維持していくかを念頭に、天生の森の環境デザイン計画に取り組み始めました。
その中で、現地にある木を使って遊歩道をつくったり、土を盛ったりすることで木の根を守ることや、水を流す丸太を歩道上にあえて斜めに置くことによって土が流出することを防ぐことなど、自然に負担をかけない環境デザインの手法を紹介いただきました。
こうした自然と人との関係性を微調整していく活動を長い時間をかけて地道に行なっていく事で、天生の森は保全されています。
最後に、飛騨市の薬草プロジェクトについてご説明いただきました。
薬草などの民間療法は数千年の食経験によって築き上げられてきたものです。新薬だと決まった症状にしか効かないものも多いですが、薬として用いられる植物はその利用の仕方を調整する事でいくつかの症状に効くこともあります。食料や薬草はからだのバランスを保つことを後押しする効果があるようです。
またフキノトウなどの薬草を普段から美味しく食べることで、薬を飲む前に日常の食事の中でからだのバランスを保つことができるのも嬉しい点です。
写真、効能などを見せていただきながら飛騨市内の森の中でみることができる多くの薬草を紹介していただきました。雑草だと思っていた植物が意外な効能を持っていることが分かり、まさに森、自然は緑のホスピタルだと感じさせられました。
最後に野村さんから、広葉樹のまちづくり学校に対して、
「意外と自然の中には見えていない・理解できていないことが多いので、考えを共有していくことで仲間を増やしていくことが重要。子供世代が今よりいい生活ができるよう実践していってほしい。」
というコメントをいただき、この学校で学ぶべき重要な点を改めて認識させていただきました。
飛騨の森ガイド協会会長の岩佐さんからは豊かな北飛騨の森の風景とご自身が行なっている保護・保全活動についてご紹介いただきました。
講義の中ではこの記事でたくさんの写真をお見せできないことが残念なほど、春夏秋冬であらゆる表情に変化する北飛騨の森の風景を見せていただきました。
池ヶ原湿原では春になると40万株ものミズバショウが咲きほこり、夏にはナツツバキやコオニユリなどがみられます。秋の天生県立自然公園は紅葉の名所として名高く多くの観光客が訪れます。また冬の時期になると北飛騨の森ではスノーシューを楽しむことができます。
岩佐さんの活動はこうした森を維持していくために多岐に渡っています。
森を案内する飛騨の森ガイド協会会長としての役割。その他にも池ヶ原湿原自然保護センター所長や、岐阜県から受託して実施した「岐阜の宝もの」のプロジェクトリーダーとしての顔もお持ちです。
岩佐さんはこうおっしゃいます。
「価値が認められなければ北飛騨の森という宝物も残せない。森をそのまま残す保護、手を加えながら残していく保全と活用を両輪として回す・繋ぎ役として未来につなぐ活動をしている。」
こうした思いを、北アメリカ原住民の言葉を引用されて「子孫からの預かりもの」と表現をされていたのは非常に印象的でした。
また今後の展望として、北飛騨の森の全体を繋げ、面としてまとめブランド化することで、フォレストリゾートとしてエコツーリズムを推進できないかと考えておられます。
最近ではガイドをしたいという若い人もかなりいるようで、次世代にこういった活動を繋いでいくためにはどういたら良いかよく考えられているそうです。
次に武藤さんから飛騨クアオルト健康ウォーキングについてご説明をいただきました。
クアオルトウォーキングとはドイツ発祥の健康増進を図るウォーキングのことです。
ドイツではクアオルト(健康保養地)に2〜3週間滞在し、野山の気候や地形を活用して健康増進を図ることに医療保険の適用が認められています。日本ではこの「気候性地形療法」の手法を用い、運動習慣のない方の運動や病後のリハビリ、生活習慣病の予防、改善のためにクアオルト健康ウォーキングを展開しています。
クアオルトウォーキングを行う際には、まず健康に問題がないか確認をします。
そして心拍数を常にチェックし、状態を確認、コントロールしながら歩きます。
またウォーキングで上昇した体温を水や風で冷やすことで、運動効果が増すとも言われています。
ウォーキングに参加する人も徐々に増え、こうした人々のニーズに対しても、安心、安全な健康づくりの場としても森林の環境づくりは必要だと強く感じておられました。