講義レポート

第5回 令和3年1月21日~22日

広葉樹の多様な可能性

針葉樹と比較して樹種が多様な広葉樹は用途もまた多様である。ここでは、広葉樹の木材としての多様な用途と可能性、その他の林産物利用や空間利用など幅広い活用の可能性と市場について理解する。

講義内容
広葉樹の新しい活用研究
広葉樹に関する研究開発の動向と実際
広葉樹の多様な木材利用
広葉樹林と地域の暮らし・産業
広葉樹林の空間利用についての事例紹介と
ワークショップ
講師
岐阜県立森林文化アカデミー 渡辺圭氏
飛騨市広葉樹活用研究 WG 事務局 浅田隆之氏
岐阜県生活技術研究所 長谷川良一氏
岐阜県立森林文化アカデミー 教授 久津輪雅氏
飛騨市役所河合振興事務所 所長 野村久徳氏 他
飛騨の森ガイド協会会長 岩佐勝美氏
飛騨市健康ウォーキングガイド協会
(クアオルト健康ウォーキング)事務局 武藤浩一氏

新年一回目の飛騨市・広葉樹のまちづくり学校。
今回はコロナウイルスの影響によって残念ながらオンラインでの開催となりました。
オンラインという熱気が感じづらい状況の中でも、参加者のみなさんからは活発に質問が出てており、改めて意欲の高さを感じました。
それでは、第5回の様子も学校運営事務局である株式会社トビムシの森脇がレポートとしてまとめたいと思います。

今回、第5回のテーマは『広葉樹の多様な可能性』。
針葉樹と比較して樹種が多様な広葉樹は用途もまた多様です。ここでは広葉樹の木材としての多様な用途と可能性、その他の林産物利用や空間利用など幅広い活用の可能性と市場について理解することを目的としました。
参加者の皆さんからも「用材としての木材だけでなく、森林や樹木としての価値の見出し方のヒントを得たい。」「広葉樹や森について材料以外の違う視点での話を聞く事で、今までの商材の付加価値を上げる事ができればと考えていました。」「建築家や木工作家では考えつかないような出口の引き出しを増やしたい。」といったコメントが寄せられ、講義に対する期待が伺えました。

それでは、1日目からレポートしていきます。

2021/1/21(1日目)

広葉樹の新しい活用研究

講師:飛騨市広葉樹活用研究ワーキンググループ 事務局 浅田隆之氏

浅田さんは、「飛騨市・広葉樹のまちづくり」の取り組みのひとつである「飛騨広葉樹活用研究ワーキンググループ」の事務局を担われています。このワーキンググループは主に小径材や枝条、樹皮など、これまで未活用だった部分の可能性を探るために研究を行っています。今回は低温乾燥、新商品開発、新技術開発、探索研究の4つの研究についてご説明いただきました。

乾燥については多様な広葉樹の樹種、厚みに合った最適な条件を見つけることで、色むらなく自然な風合いの仕上がりや内部割れの低減、加工後の反りなどを軽減する方法を研究されています。
これまで小径広葉樹は人工乾燥に入れると大径の広葉樹に比べて反ったり割れたりしやすいと言われていました。また、従来の天然乾燥と人工乾燥を併用した方法だと乾燥期間が約1年間と時間がかかってしまい、需要があっても供給できずに販売機会を失うことがありました。 小径木の低温乾燥の方法を確立することで、生木の状態から30~40日間程度の短期間で乾燥することができ、受注から納品に至るまでの時間を短くすることができます。その結果、大量在庫販売から個別受注生産への転換を図り、販売機会の損失を防ぐことができること、また天然乾燥材の在庫を多く抱える必要がなくなり、在庫管理コストや天然乾燥材をおく土地代を節約することができるといったメリットがあります。
こうした低温乾燥を軸にした小径広葉樹の活用システムを構築できれば、地域の広葉樹林を在庫に見立て、ニーズに応じた森林整備も可能になります。

新商品開発としては、低温乾燥させた小径木を幅接ぎしたボードを商品化すること等を検討されています。

また広葉樹を丸ごと使うことができるよう、これまで活用されていなかった樹皮からアルコール製品を作ったり、枝葉で抗菌作用のある断熱材をつくる研究も進んでいるそうです。これらの研究によりこれまで未活用だった広葉樹の活用方法が広がることは、川上の収益を増やして森林経営を安定化させることや、木材加工関連産業を活性化、新規事業展開による雇用の増加につながり、飛騨地域の木材産業6次化による経済的な自立と雇用創出を達成に寄与するものだと感じました。

※飛騨広葉樹活用研究ワーキンググループはその研究の成果を、2020年3月20日の日本木材学会大会で「飛騨地域産小径広葉樹の高付加価値化・活用推進のための商品開発・試験研究」として発表される予定です。
https://confit.atlas.jp/guide/event/wood2021/subject/2-08-03/class?cryptoId=

参加者からのコメント

  • 地域熱での低温乾燥など大変興味深いお話でした。木工家にとって良質な木材は必須なので、飛騨地域から乾燥技術がさらに進展していくことを期待しています。 簡易乾燥施設での乾燥方法も確立すれば、乾燥施設を持つ個人工房も増え、多様な木材利用に繋がると感じました。
  • 科学的研究者の立場でのお話で、常識にとらわれずに、「課題を設定してやってみる」「いろいろと試してみる」という姿に、新しいことに挑戦するために大切な心構えを教えていただいたように感じました。 「短時間で木材を乾燥させる」みたいなことも今までの常識に縛られていたらできない考え方だなと思いました。 また「広葉樹」とひとくくりに扱うけれども樹種ごとに合った用途や活用方法がそれぞれあるのだと思いました。
  • 木材を科学の切り口で知ることができた。この画期的な乾燥法で今までの流通ががらりと変わる可能性もあるんですね。研究者や技術者の方々の気概を感じます。コントロールの方法が一番の要とのこと、一筋縄ではいかない木の生き物らしさを感じた。
  • 低温乾燥にとても関心があります。 従来の高温乾燥とは違って、木にダメージを与えず天然乾燥のような仕上がりになるということはとても興味深いです。 ぜひ試しに使ってみたいです。

広葉樹に関する研究開発の動向と実際

講師:岐阜県生活技術研究所 長谷川良一氏

長谷川さんからは、まず広葉樹の特性についての概要をご説明いただいた後に、高山市にある岐阜県生活技術研究所の概要をご説明いただきました。

岐阜県生活技術研究所には木材系以外にも物理・化学系やデザイン・人間工学・感性工学を研究するメンバーがいるため、様々な角度から日々研究を行なっています。
家具の研究を行なっている公的な研究機関は全国でも3箇所しかないそうで、非常に貴重な存在と言えます。

講義の中では研究内容をいくつかご紹介いただきました。

飛騨の家具の特徴としてあげられる曲木技術は、研究所でも長年研究されてきたそうです。
飛騨地域に多くみられるブナは非常に曲木に適した材料です。しかし、近年、良質材の減少、デザインの多様化、天然乾燥から人工乾燥に乾燥方法が変わったこと、またナラ、ホワイトオーク、ビーチ材など多様な樹種を利用することが増えてきたこと等から、曲木がしにくく不良品となってしまう問題がおこることもあるそうです。
基本的に曲木は、帯鉄と木材を一体化した状態で曲げ加工を行います。ただ現状の製造工程で、蒸煮後に適正な水分管理がなされていない、または帯鉄と木材表面のずれや帯鉄厚さの変更が行われていないことなどで、曲げ加工がうまくいかないことがあるようです。 そこでこうした課題を解決するために企業と協力し、曲木の可否を簡易的に判断できるプログラムを作成しています。そこに木材の諸条件を入力することで曲げることができるかを判断してくれるというものです。
こうした研究は多様な広葉樹を加工することへのハードルを下げ、広葉樹を有効活用することに繋がっていくと感じました。

その他にも木製エクステリア家具の開発、木の香りを生かした木製品の開発、ヒトの感性に基づいた幅接ぎ天板の設計指針の導出や早生樹の活用研究など興味深い研究をご紹介いただきました。
こうした研究所があることは飛騨地域の財産でもあり、さらに気軽に見学することもできるのは非常に恵まれた環境にあるなと感じました。

これまでの研究成果等は岐阜県生活技術研究所のwebサイトで公開されているので、ご興味ある方はぜひご覧になってみてください。

https://www.life.rd.pref.gifu.lg.jp/

参加者からのコメント

  • 先の講義でも思ったが、乾燥がともかく大変。 もう少し技術革新が業界全般に広まらないかな。
  • 研究施設のある岐阜県はとても恵まれた場所だということを初めて知りました。 森林資源や家具に関する様々な研究が日々行われており、飛騨の家具産地としての支えになっているのですね!
  • 生活技術研究所があること自体、飛騨地域の大きな特徴でありメリットだと感じました。現状の研究や技術協力が、主に家具メーカーを想定した関係性になっているので、もっとユーザーに近い方(販売店や商品企画をする方など)に知っていただき活用できたら、より市場ニーズに近い商品や技術ができてくるのではないでしょうか。
  • もっと生活技術研究所に足を運んで、活用させていただきたいです。

広葉樹の多様な木材利用

講師:岐阜県立森林文化アカデミー 教授 久津輪雅氏

エゴノキプロジェクト

岐阜県森林文化アカデミーの久津輪先生からはエゴノキプロジェクトとグリーンウッドワークについてご説明いただきました。

エゴノキプロジェクトは和傘の「傘ロクロ」という部品に利用するエゴノキを供給し、保全していく活動です。岐阜県は和傘の生産量日本一ですが、傘ロクロをつくる職人さんは現在では一人だけになってしまったそうです。

かつては炭焼き職人の子供達が小遣い稼ぎにエゴノキを集める等、地域材の供給システムができていましたが、エネルギー革命により炭が使われなくなり、エゴノキの供給システムもなくなりました。
そこでエゴノキの供給を維持していくために2012年から和傘職人、アカデミー、地元住民の方と共に活動を始められたそうです。
近年ではまちづくりNPOが岐阜市内に和傘店をオープンさせたり、後継者の育成のための資金をクラウドファウンディングで集めたり、岐阜和傘協会を設立して行政の支援も得るなど、県外の和傘関係者、市民の方など、たくさんの人が参加してくれるようになり着々と活動の輪は広がってきています。
また若手職人がこうした取り組みを牽引し始めており、次の世代にも繋がっています。
このような林業だけではなく地域全体のさまざまな分野に波及する取り組みは、広葉樹のまちづくり学校においても学ぶべきことが多くあると感じました。

次にグリーンウッドワークについてご説明いただきました。
グリーンウッドワークとは切ったばかりの生木を手道具で加工して小物や家具を作る木工のことを言います。グリーンウッドワークの魅力は、森の木が暮らしにダイレクトに反映される点、創作を通して地域の資源・文化を知るきっかけになる点などが挙げられます。

久津輪先生はグリーンウッドワークを広めるために伝統的な民具である高山市の有道杓子や石川県の我谷盆などを製作するワークショップを開催されています。募集を開始するとすぐに定員が埋まるほど好評なワークショップになっているようです。
4年前からグリーンウッドワークの指導者養成プロジェクトにも取り組まれており、様々な業種から参加者が集まっています。

最後に、久津輪先生から木工家の役割が変化しているのではないかといった考えが述べられました。
「これまでは木製品を作り、憧れのライフスタイルを提供することが木工家の役割だったと思います。しかし今では一般の人に木はどこから来て、どう加工されているのかということを伝えることが木工家の役割になってきているのではないでしょうか。」

参加者からのコメント

  • 久津輪先生の2つの活動は地域の活性化や地域貢献、指導者養成につながっている。川中や川下の人達がもっと木の良さをエンドユーザーに伝えるべきだと思いました。
  • 和傘に焦点を当てていたが、川上~川下の取り組みはもちろん、全関係者を結び付け県を挙げての事業まで持って行った素晴らしいモデルだと思いました。
  • 私もエゴノキプロジェクトには参加しましたが、和傘に関わる様々な人の協力や想いがあって続けられていることを感じました。和傘のロクロ以外にはあまり利用されないエゴノキもロクロ職人にとっては大切な樹種。かつて日本人は現代より多様な樹種の特徴を活かした木工をしていたと思うので、木材、樹皮、薬、燃料の様々な用途で調べると発見があるかもしれないと感じました。
  • グリーンウッドワークにはすごく可能性を感じています。都市部の人にも気軽に楽しんでもらえる趣味として、またアウトドアでのアクティビティの一つとしての需要が高まってくると感じています。現代では機械で加工する方が想像しやすい人も多くいると思います、刃物で削るというベーシックで特別な体験が求められていると思います。
  • 今日の講義の中で、個人的にいちばん共感した。私は木工を生業にしているが、大量生産大量消費から少しでも背を向けたい気持ちがそもそものはじまりにあったと思う。生業にするとなかなか難しいところで、忘れそうになったりうまく伝わらなかったり。最終回はみんなで我谷盆のレクチャーを受けたいです。
  • 有用樹種ではない材料であり、かつ小径などの木材を活用する事例としてはとても興味深い。またエゴノキプロジェクトやグリーンウッドワークなど活動当初は小さなところから始まり、今では社会的ムーブメントにまでなっていることに、継続し可能性を追求し続けることの大切さを感じた。
  • グリーンウッドワークに感銘を受けました。 木材を製材、乾燥して使うことを前提にしていましたが、 もう少し柔軟に木材利用を考えていかなくてはいけないと思いました。エゴノキプロジェクトのような動きを飛騨市でも展開できたら、 広葉樹のまちづくりが広く認知されると思います。 最後の木工家の役割というお話しで、これからの自分の仕事のあり方を見つめ直していこうと思います。
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